マンション住まいの方にとって、防災対策は戸建て住宅とは異なるポイントがいくつもあります。特に高層階に住んでいる場合、エレベーターの停止や長周期地震動による大きな揺れ、給水ポンプの停止による断水など、低層階では想定しにくいリスクが存在します。
一方で、マンションは耐震基準をクリアした鉄筋コンクリート構造であるケースが多く、建物の倒壊リスクは戸建てより低い傾向にあります。つまり「避難所に行かず自宅にとどまる=在宅避難」が現実的な選択肢になりやすいのが、マンション防災の特徴です。
この記事では、マンション住民ならではの防災対策を高層階の注意点を中心に解説します。事前の備えで、いざという時の不安を減らしていきましょう。

高層階で揺れが大きくなる理由
高層マンションでは「長周期地震動」と呼ばれるゆっくりとした大きな揺れが発生しやすく、上層階ほど揺れ幅が増幅されます。2011年の東日本大震災では、震源から遠く離れた大阪のタワーマンションでも上層階が大きく揺れたことが報告されました。この揺れは数分間にわたって続くこともあり、通常の短い揺れとは性質がまったく異なります。
この長周期地震動は、家具の転倒や移動を引き起こしやすい特性があります。テレビや本棚が部屋の端から端まで「滑るように移動する」現象が起きるのは、長周期地震動の影響です。高層階に住んでいる場合、家具の固定は低層階以上に徹底する必要があります。L字金具やつっぱり棒での固定はもちろん、キャスター付きの家具にはストッパーを取り付けておきましょう。
気象庁も長周期地震動の危険性について情報を公開しており、高層ビル内での行動指針が示されています。高層階にお住まいの方は一度確認しておくことをおすすめします。
エレベーター停止への備え
大きな地震が発生すると、マンションのエレベーターは安全装置が作動して自動停止します。復旧にはメンテナンス業者の点検が必要で、大規模災害時は復旧まで数日から1週間以上かかる可能性があります。業者が被災地のすべてのビルを回りきるまでに相当な時間がかかるためです。
高層階の住民にとって、エレベーターなしの生活は深刻な問題です。10階以上に住んでいる場合、階段の昇り降りだけで体力を大きく消耗します。特に高齢者や小さな子供がいる世帯は、水や食料を階段で運ぶ負担を考慮した備蓄計画が求められます。日頃から階段を使う習慣をつけておくと、体力面での備えにもなります。
具体的な対策
最低でも7日分の水と食料を自宅に備蓄しておくことが理想です。戸建てであれば3日分が目安とされますが、マンション高層階では補給が困難なぶん、多めの備蓄が安心材料になります。折りたたみ式の台車やキャリーカートを用意しておくと、階段での荷物運搬が楽になります。背負えるリュック型の給水バッグも、両手が空くため階段の昇降時に重宝するアイテムです。
断水・排水制限の問題と対処法
マンションの給水方式には「直結増圧方式」と「受水槽方式」がありますが、いずれも停電するとポンプが動かなくなり、高層階から順に断水が始まります。低層階はしばらく水が出る場合でも、10階以上はすぐに水が止まるケースが珍しくありません。受水槽がある場合でも、タンク内の水が尽きれば同様に断水します。
さらに見落としがちなのが排水制限です。地震で排水管が損傷している可能性があるため、管理組合や管理会社から排水の可否が確認されるまで、トイレや台所の排水は控える必要があります。安易に水を流すと、下の階で汚水が漏れ出す二次被害が発生します。排水管の損傷は外見からはわからないことが多いため、専門家の点検結果が出るまでは慎重に対応してください。
トイレ問題の解決策
断水・排水制限時のトイレ問題は、マンション防災で最も切実なテーマです。非常用の簡易トイレ(凝固剤付き)を1人あたり1日5回×7日分=35回分を目安に備蓄しましょう。便座にかぶせて使うタイプが、既存のトイレで使えるため実用的です。使用後は付属の袋で密封し、ゴミ回収が再開するまでベランダなど風通しの良い場所に保管するのがベストです。
在宅避難を前提とした備蓄のポイント
マンションの耐震性を考えると、建物自体が倒壊する可能性は低く、在宅避難が基本方針になります。内閣府も在宅避難が可能な場合は無理に避難所へ行く必要はないとしています。
在宅避難で必要になる備蓄品をリストアップします。
水は1人1日3リットル×7日分で21リットル。4人家族なら84リットルが目安です。2リットルペットボトルで42本分になりますので、置き場所もあらかじめ確保しておきましょう。クローゼットの下段やベッド下のスペースを活用すれば、意外とまとまった量を保管できます。
食料はカセットコンロと合わせて備蓄すると、温かい食事がとれます。カセットボンベは7日分で6〜9本程度が目安です。停電に備えてモバイルバッテリーやポータブル電源も高層階では優先度の高い備蓄品です。情報収集や家族との連絡にスマートフォンが欠かせないため、充電手段の確保は命綱になります。

管理組合・住民同士の防災体制づくり
マンション防災で見落としがちなのが、住民同士の連携です。災害時は管理人が不在の場合も多く、住民自身で初期対応にあたる必要があります。日頃から顔の見える関係を築いておくと、いざという時にスムーズな協力体制が組めます。
管理組合の防災活動として取り組みたい項目を挙げます。まず、フロアごとの安否確認担当者を決めておくこと。全戸の状況を一人で確認するのは現実的ではないため、階ごとに担当を割り振る方法が効率的です。安否確認の結果を集約する場所(エントランスのホワイトボードなど)をあらかじめ決めておくと混乱を防げます。
次に、共用部の防災備蓄品の整備です。簡易トイレ、担架、発電機、救急セットなどをマンション共用スペースに保管しておくと、個人の備蓄を補完できます。国土交通省はマンション管理ガイドラインの中で、管理組合による防災計画の策定を推奨しています。
年に1回程度の防災訓練を実施し、エレベーターを使わない避難経路の確認や、備蓄品の場所の共有を行うことも有効です。訓練を通じて住民同士が顔見知りになるだけでも、災害時の連携力は大きく向上します。
まとめ
マンション住民の防災対策は、高層階特有のリスクを正しく理解することから始まります。長周期地震動による揺れの増幅、エレベーター停止による孤立、断水・排水制限への対処が主な課題です。
在宅避難を基本とし、7日分の水・食料・簡易トイレを備蓄しておくことが、マンション防災の要になります。個人の備えに加えて、管理組合や住民同士の連携体制を整えておくと、災害時の対応力が格段に向上します。まずは今の備蓄量を確認するところから、始めてみてください。

※2026年4月時点の情報です。

