避難所や車中泊で最もつらいのは「眠れない」ことだと、多くの被災経験者が口を揃えて語っています。固い床、冷たい地面、狭い車内。慣れない環境に加え、身体への物理的な負担が重なり、まともに眠れない日が続くと心身ともに消耗していきます。睡眠不足が続くと判断力が低下し、体調を崩しやすくなるため、災害対応そのものに支障をきたすことにもなりかねません。
東日本大震災や熊本地震では、避難所生活の長期化による「災害関連死」が大きな社会問題となりました。その原因の一つが睡眠不足による体調悪化です。熊本地震では直接死50人に対して災害関連死は218人と、間接的な原因で亡くなった方の方がはるかに多かったのです。つまり、災害時に「しっかり眠れる環境を作る」ことは、命を守る行為に直結しています。
この記事では、避難所生活や車中泊を想定した寝袋とエアマットの選び方を、具体的なスペックの目安とともに解説していきます。初めて購入する方でも迷わないよう、判断基準を明確にしてお伝えします。
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寝袋(シュラフ)の選び方
形状は「封筒型」と「マミー型」の2種類
寝袋の形状は大きく分けて2つあります。封筒型は長方形で布団に近い感覚で眠れるため、寝袋に慣れていない方におすすめです。ファスナーを全開にすれば掛け布団としても使えるため、汎用性が高いのも特徴です。2つの封筒型寝袋を連結して、親子で一緒に入ることもできるモデルもあります。
マミー型(ミイラ型)は身体にフィットする形状で、保温性が高く軽量コンパクトです。ただし圧迫感があるため、閉所が苦手な方にはストレスになることがあります。真冬の避難を想定するならマミー型、それ以外の季節なら封筒型が無難な選択です。どちらか迷ったら、まずは封筒型から試してみるのがおすすめです。
快適使用温度と限界使用温度
寝袋には「快適使用温度」と「限界使用温度」の2つの温度表示があります。防災用には快適使用温度が5度以下のものを選んでおくと、春〜秋の3シーズンに対応できます。冬も想定するなら快適使用温度がマイナス5度以下のモデルが必要です。この温度域なら、暖房が止まった冬の室内でも安全に眠ることができます。
モンベルのスリーピングバッグ選びガイドでも、使用環境に合わせた温度域の選択が詳しく解説されています。限界使用温度はあくまで「生命維持が可能な下限」であり、その温度で快適に眠れるわけではない点に注意してください。購入時は必ず「快適使用温度」を基準に選びましょう。
中綿素材:化繊 vs ダウン
化繊(ポリエステル綿)は水に濡れても保温性が落ちにくく、洗濯も容易で価格も手頃です。防災用途では水濡れのリスクがあるため、化繊の寝袋が防災向きとして適切と言えます。汚れた場合も自宅の洗濯機で丸洗いできるモデルが多く、衛生面でも安心です。
ダウン(羽毛)は軽量でコンパクトに収納できますが、水に弱く、濡れると保温力が大幅に低下します。価格も高いため、防災専用で購入するなら化繊がコストパフォーマンスに優れています。キャンプでも使いたい方は、化繊でも十分な保温力を持つモデルが3,000〜8,000円程度で手に入るため、まずはこの価格帯から始めるとよいでしょう。

エアマットの選び方
寝袋だけでは、硬い床や地面の上では快適に眠れません。エアマットを組み合わせることで、寝心地が劇的に改善されます。避難所の体育館の床は想像以上に硬く冷たいため、マットの有無で睡眠の質に天と地の差が出ます。
厚みは5cm以上を目安に
エアマットの厚みは5cm以上あれば、体育館の床や車のシートの凹凸をほぼ吸収できます。3cm程度の薄いマットでは地面の硬さが伝わりやすく、長時間の睡眠には不十分です。特に肩や腰への負担が大きくなり、翌朝に身体が痛くなるケースが多いです。8〜10cmの厚手のモデルは寝心地が非常に良い反面、収納サイズが大きくなるためバランスを見て選んでください。
膨張方式の違い
エアマットの膨張方式は3種類あります。口で吹いて膨らませるタイプは安価で軽量ですが、肺活量が必要で時間もかかります。特に災害時に疲れ切った状態で口で膨らませる作業は、想像以上に大変です。自動膨張(セルフインフレータブル)タイプはバルブを開けると自動で空気が入り、数分で使用可能になります。ポンプ内蔵タイプは手や足でポンプを押して膨らませるもので、口を使わず衛生的です。
防災用途では、自動膨張タイプかポンプ内蔵タイプが使い勝手の面でおすすめです。疲労している災害時に、口で膨らませる作業は想像以上に負担がかかります。ポンプ内蔵タイプなら1〜2分で膨らませられるモデルが多く、手軽さではベストの選択です。
R値(断熱性能)にも注目
マットのR値は断熱性能を示す数値で、高いほど地面からの冷気を遮断する効果があります。サーマレストなどのメーカーサイトではR値の詳細な説明がありますが、3シーズン対応ならR値3以上、冬季対応ならR値5以上を目安に選ぶとよいでしょう。避難所の体育館の床は冬場非常に冷えるため、R値は思った以上に重要な指標です。R値が低いマットを冬に使うと、下からの冷えで寝袋の保温性能を十分に発揮できないことがあります。冬の防災対策全般については以下の記事で詳しくまとめています。

車中泊での寝袋・マットの使い方
避難所に入れない、あるいはプライバシーを確保したいといった理由で車中泊を選ぶ方は多くいます。熊本地震では避難者の約3割が車中泊を選択したとされています。車中泊ではエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)のリスクがあるため、できるだけ身体を伸ばして眠れる環境を作ることが重要です。
後部座席を倒してフラットにし、エアマットを敷くのが基本です。完全にフラットにならない車種では、隙間や段差をクッションやタオルで埋めてからマットを敷くと安定します。100円ショップの折りたたみマットやバスタオルを段差に詰めるだけでも、寝心地は大幅に改善されます。事前に自分の車でどの程度フラットになるか確認しておくとよいでしょう。
車中泊では窓の結露対策も必要です。人が車内で眠ると、呼気の水分で窓が結露し、車内の湿度が上がります。窓を少し開けて換気するか、除湿剤を置いておくと改善できます。ただし、窓を開けると防犯面の不安があるため、網戸付きのウインドウカバーがあると安心です。車用の防虫ネットは1,000〜2,000円程度で購入でき、夏場の虫対策にもなります。車に積んでおくべき防災グッズは以下の記事でまとめています。



避難所での寝袋・マットの使い方とマナー
避難所では多くの人が共同生活を送るため、配慮すべきポイントがあります。周囲への気配りが、避難所での快適な生活につながります。
まず、音への配慮です。エアマットは寝返りを打つとビニールの音が出ることがあります。表面が布地のマットを選ぶか、マットの上にタオルを敷くと音が軽減されます。ナイロン製の寝袋も動くたびにシャカシャカと音がするため、気になる方は綿混素材の寝袋を選ぶか、寝袋の上にタオルケットをかけるとよいでしょう。
スペースの確保も重要です。避難所では1人あたりのスペースが限られるため、内閣府の避難所運営ガイドラインを参考にしつつ、コンパクトにまとまる寝具を選ぶとよいでしょう。封筒型の寝袋は広げると幅を取りますが、開かずに使えば省スペースです。マットのサイズは幅60cm程度のシングルサイズが、避難所のスペースに収まりやすい目安です。
耳栓とアイマスクは寝具と並んで必須のアイテムです。避難所は夜間も照明が消えなかったり、周囲の物音が気になったりして眠れないケースが多いため、この2つがあるだけで睡眠の質が大きく変わります。合わせて500円程度で購入できるので、寝袋・マットとセットで準備しておきましょう。避難所での過ごし方と持ち物リストは以下の記事で紹介しています。



まとめ:「眠れる備え」が災害時の体力と気力を守る
災害時の避難生活で最もダメージを受けるのは、実は睡眠環境です。寝袋は封筒型・化繊・快適使用温度5度以下を基準に選び、エアマットは厚み5cm以上・自動膨張かポンプ内蔵タイプを組み合わせる。これだけで、避難所の硬い床や車内でもある程度の睡眠が確保できます。
寝袋とエアマットのセットで5,000〜10,000円程度の投資ですが、災害時の体力と精神力を守るという意味では、最もコストパフォーマンスの高い防災グッズと言えるでしょう。購入したら、一度は自宅の床で実際に寝てみて、使い心地を確認しておくことをおすすめします。「買って安心」ではなく、「使って安心」が防災準備の基本です。


※2026年4月時点の情報です。

